育休退園がつらく苦しい理由
育休退園がつらく苦しい理由
「育休中なら家庭で子どもの面倒を見られるじゃないか。どうして待機児童に席を譲らないんだ!」
育休退園への賛成論も多く聞かれます。その理由としてまず挙げられるのが、「育休中なら家庭での保育が可能でしょ!」というものです。
確かに、育休中は母親(または父親)が自宅にいて、0歳の子を世話しているわけですから、1~2歳の上の子を同時に子育てすることは、不可能ではありません。
そして実際に、
①昔は保育園など無かったので0~2歳の子を母親が育てるのは当たり前だった。
②現在でも、専業主婦の母親は0~2歳の子が2人いたら、家庭で保育している。
ということは事実です。
しかし、現代の日本社会で0~2歳の子どもを家庭で2人育てることは、母親に著しい負担を与えるのが実情なのです。
その理由は、子育て中の多くの母親が孤立した子育てを強いられていることにあります。
昔(昭和の時代まで)の子育て家庭にあって、現在の子育て家庭に無くなったものがあります。それは
①祖父母や親戚のサポート
②地域のサポート
です。言い換えると「核家族化が進み、いざという時に頼れるほどの地域の繋がりも失われた」ということになります。
「祖父母と同居しているし、小中学生の時からずっと同じ地域に住んでいるから、近所の人や同級生など困った時に子供を見ててもらえる相手が複数いる。」
そのような家庭は激減しています。しかも夫は長時間労働。その結果、母親が孤立して、いわゆる「孤育て」状態に追い込まれています。
そのような状況の中で、0歳と2歳の乳幼児を、1日15時間一人で世話しなければならない母親のことを想像して欲しいのです。
参考データ
「子ども同士を遊ばせながら立ち話をする程度の人」が「一人もいない」母親が34.3%。2011年ベネッセ次世代研究所の調査結果。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5108?page=2 …
「平日に自宅で子どもと母が2人だけで過ごす時間」0~2歳児をもつ母の22・1%が15時間以上。首都圏の0歳児の母親では30%以上、10時間以上は60%以上に上るそうです。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5108?page=2 …
「昔の母親はみんな頑張っていた」は嘘です。空気のように当たり前のように存在していた、祖父母や近所や友達のサポートの有難さに気づいていない人の発言です。
このような社会構造の変化が、現代の育児に大きな影響を与え、「少子化」の大きな原因となっています。
母親がたった一人で、子育ての負担を背負わなければならない状況を、現在の子育てに関わっていない年配の方々や独身の方々にはイメージしづらいようです。現代の子育て状況をよく知らない人たちが「育休中なら家庭で子育て出来るじゃないか!」と主張しています。
でも、実際に現在の社会構造の中で、孤立した母親が家庭で0~2歳の子を2人育てることは、何度も繰り返しますが、ものすごくハードなのです。1人目を育てている家庭はそのことを既に充分に感じていますから、育休退園には反対するし、仮に育休退園が実施されるなら、2人目の出産を遅らせようと考えるわけです。
なお、「専業主婦の家庭は0~2歳の子を家庭で育てているじゃないか!」という意見がありますが、それはもちろんその通りです。
ですが、先ほどの社会構造の変化は専業主婦にも当てはまりますから、子育てをしている専業主婦の方で祖父母、地域、夫のサポートの無い方々は悲鳴を上げています。
「祖父母は遠距離で頼れず、引っ越してきて間もないので地域には頼れず、夫も長時間労働で頼れず、でも私一人で0~2歳の2人の子育て楽しく出来ちゃってますよ~」という人がいたら教えて下さい。
少子化は保育園を利用する共働き家庭だけではなく、専業主婦家庭でも進んでいるのです。育休退園制度は保育園を利用して何とか複数の子どもを育てようとしている共働き家庭を、そのような厳しい状況の専業主婦家庭と同じ状況に追い込むものです。
ちなみに育休退園制度が実施されてから学んだことですが、0~2歳の子を2人以上育てている専業主婦家庭の厳しさや、専業主婦家庭でも少子化が進んでいることを考えると、そのような専業主婦家庭にも、より手厚いサポートを実現していくことが、少子化対策として求められることになります。スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、フランスなどの北欧を中心とした欧米諸国では、母親が働いている、いないに関わらず、保育園や保育ママといった制度を利用できます。そのような政策を実行することで、少子化を回避することに成功しています。(日本の出生率は1.4、上記の諸国は2.0前後です。)
とにかく「母親が家庭にいるなら0~2歳の子どもを2人育てて当たり前」という主張は、完全に間違っていると言わなければなりません。
もし、その主張通りの政策を実行すると、出生率は上がらず少子化が進み、日本の経済や社会保障が破たんを招きます。
ここに述べたことは、社会保障や福祉政策に携わっている方々には「常識」です。
「保育園を考える親の会」(http://www.eqg.org/oyanokai/)が調査したところによると、育休退園を実施している自治体は主要100都市の中で5つだけでした。平成28年度以降は2つ(所沢市、熊本市)のみになります。
どの自治体も待機児童対策には頭を悩ませています。東京都の区部などでは、待機児童の数は1000人以上いるところがザラです。(所沢市は平成27年4月1日時点で19人)それでも育休退園制度は98%の自治体が採用しない制度ということなのですが、その理由は各自治体職員が福祉のプロであり、待機児童対策に育休退園を使うことが大きなマイナスになることを知っているからです。
しかし、以上に述べたことを踏まえたとしても「育休中の家庭が厳しいのは分かった。でも待機児童家庭は、場合によっては会社を辞めなければならない状況なのだから、もっと厳しいと言える。優先順位は待機児童家庭が上なのでは?」という意見が出てきます。
私もその通りだと思います。単純に状況の厳しさだけを比較するなら、育休家庭より待機児童家庭の方が、保育園を利用しなければならない緊急性は高いという意見には同意できます。私自身も、最初に育休退園開始の話を知ったとき、「待機児童のことを考えれば、やむを得ない」と思いました。しかし、よく保育園の制度を調べてみると、育休退園を待機児童対策には利用できない、システム上の問題点が見えてきたのです。
その問題点の説明については、こちらの記事をご覧ください。
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